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私たち親は皆、子供を愛していることに違いはありません。
ただ、愛しているからといって、親の愛情が子供に届いているかというとそうではないのです。そして、意外と子供を理解しようとはせずに、子供に要求ばかりすることが多くなっているのではないでしょうか。しかし、それでは親の愛情が子供に届かないのです。
これから何回かにわたって、親の愛情の伝え方を、話の「聞き方」と「話し方」の二つの観点から学んでみたいと思います。
よく、“聞き上手は話し上手”と言いますが、まず二つの聞き方を紹介します。
一つ目は、先回も紹介した「共感的聴き方」です。
多くの親の子供に対する接し方はというと、「良かったらほめる。悪かったら叱る」ということが多いのではないでしょうか。このうち、「良かったら褒める」というのはそんなに問題にはなりませんが、「悪かったら叱る」ということを一度考えてみましょう。
例えば、子供が犬に餌をあげる役割を担当していたとして、三日間餌をあげた様子が見られないので、仕方がなく親が自分で餌をあげたとしましょう。この場合、もちろん子供を叱って当然なのですが、問題は親が自分の基準に合わせて叱ってしまう場合が多いということです。あるいは、親が自身に問題を持っているため叱る場合があります。親の心に余裕がなく、感情的になり、つい叱ってしまう場合です。
犬に餌をあげることは子供の責任であるわけですが、その責任を果たさない時、子供が何かの事情を抱えている場合もあります。学校でいじめられていたり、学業や部活などで壁にぶち当たっていたりすることもあります。ですから、子供が三日間犬に餌をあげなかったことは、子供からの何らかのメッセージだと捉えることもできます。
私たちはいつも親自身の価値基準で子供を判断していますが、子供には子供の観点があるのです。まず、そのような子供の事情を理解して、接する必要があります。子供への接し方を決めるのは、それからでもいいのです。
子供が問題を抱えている時にやってはいけないことは、命令、脅迫、説教、提案、非難、賞賛、同情、侮辱、分析などです。たとえば、不登校になったときに「学校に行かないと立派な人間になれないよ」と言って、学校に行かせようとする。逆に褒めるということもいけないようです。それから激励、質問も避けたほうが良いでしょう。
最近、いじめによって自殺してしまうという事件がたびたび起きています。もし親がよき相談相手になっていれば自殺は起こらなかったかもしれません。ある自殺してしまった子の遺書には、子供の悩みを何とか解決しようと、親が子供にした10の質問に対する回答が書かれていたそうです。その親は、子どもがなぜ質問に答えなかったのかと悩んでしまいました。親が質問をすることが、かえって子供にとって苦痛になることがあります。おそらく質問された子供には、それに答える心の余裕がなかったのでしょう。応えたくない子供の気持ちを理解することも時には必要なのです。
私たち親は、何とか子供に答えを教えてあげたいと思うのですが、「教える」というのは、実は親の心を満たすだけであって、子供には愛情が伝わらない場合があります。むしろ、共感的に子供の気持ちを理解してあげることこそが、親の愛情がもっとも伝わる方法であり、子供の問題を解決できる方法でもあるのです。
多田聰夫